Ear Discoveries: “The sound of Latin New York”
Mon.08.10.2026
こんにちは。禅野です。
暑い夏だから、涼しげな音楽を聴くもよし。
逆に、その暑さをさらに感じるような音楽を聴くもよし。
あえて暑苦しい音楽に身を委ねるのもまた夏の楽しみ方です。
今回は、僕が昔から惹かれていた、乾いたラテンパーカッションの音について書いてみようと思います。
レコードを買い始めたころ、僕にはひとつだけ妙に反応してしまう音がありました。
それが乾いたパーカッションの音。
どこの誰が叩いているかなんて知らなくても、その音がラテンにルーツを持っていることくらいはわかる。
コンガやティンバレスが前に出ていて、少し土埃っぽく、陽気というよりは、乾いた街の熱気を感じるようなリズム。

ソウルミュージックを入り口にレコードを聴き始めた僕にとって、
「Coke Escovedo – I Wouldn’t Change A Thing」は特別な一曲です。
もちろん素晴らしい歌や演奏があるのですが、当時の僕が一番反応していたのは、イントロで鳴る歯切れのいい乾いたパーカッションでした。
「こんなイントロの曲ばかりだったらいいのに」 そんな、今振り返ればかなり偏った、そして退屈な思想すら芽生えていました。
そんなこんなで、偏屈にもパーカッションにフォーカスして、ソウルやファンク、ジャズを聴き続ける日々。
レコード屋に行く度、パーカッションの文字を見つけては、試聴して買って帰る。
気に入った曲を何度も聴いて、ジャケットを眺めて、裏面のクレジットを見る。
すると、少しずつ同じ名前が目に入るようになりました。
アーティスト名としてはもちろん、パーカッションの欄にも何度も登場する名前。
Mongo Santamaria
Candido
Willie Bobo
当時は彼らがどんな人物なのか、どんな場所で音楽を作っていたのかも知りませんでした。
ただ、その名前が気になって、今度は彼ら自身の作品を聴いてみる。
そこには、乾いたパーカッションがどうこうという話を抜きにして、単純に「最高」と思える音楽がありました。
気がつけば、パーカッションという入口から彼らの作品に魅了され、ニューヨークのラテンシーンへと辿り着いていました。
そして後から知ることになります。
僕が夢中になっていた乾いたパーカッションの音は、単にキューバやカリブ海の伝統音楽として存在していたわけではありませんでした。
1950年代から60年代にかけて、多くのキューバ系、プエルトリコ系の移民がニューヨークへ渡り、そこでジャズやソウル、ファンクといったアメリカの音楽と出会う。
異なる文化が同じ街の中で混ざり合い、新しいラテン音楽が生まれていきました。

では、僕が何度も名前を見ることになった3人は、一体どんなミュージシャンだったのか。
改めて調べてみると、そこには共通点がありました。
彼らはカリブ海にルーツを持ち、そしてニューヨークという街で大きな活動を残したパーカッショニストでした。
彼らは、キューバで生まれたリズムをそのまま持ち込んだだけではありません。
ジャズ、ソウル、ファンク。
当時ニューヨークで鳴っていた様々な音楽を吸収しながら、自分たちの音楽を作っていきました。

Mongo Santamaria – Watermelon Man
キューバ出身のパーカッショニストであり、ニューヨークのラテンジャズシーンを語る上では欠かせない存在、Mongo Santamaria。
Herbie Hancockの「Watermelon Man」をラテンジャズとして再構築したことで、ラテンのリズムがジャズファンにも広く届くきっかけとなった一曲でした。
そして、彼自身が作曲した「Afro Blue」。
後にJohn Coltraneをはじめ、多くのジャズミュージシャンによって演奏されることになるこの曲は、アフロキューバンのリズムがジャズの表現を広げていく象徴的な一曲です。
彼の魅力は、キューバのリズムをそのまま鳴らすだけではなく、ジャズやソウル、ファンクなど、その時代に鳴っていたアメリカの音楽を自然に取り込んでいったところにあります。

Candido – Serenade to a Savage
キューバ出身のパーカッショニストであり、コンガという楽器の可能性を世界に広げた第一人者、Candido。
それまでリズムを支える役割として捉えられることも多かったコンガを、ひとつの表現楽器として前面に押し出したのがCandidoと言われています。
彼の演奏は、とにかく音が強い。
乾いていて、鋭く、時には歌うように響くコンガの音。
僕が最初に惹かれた「乾いたパーカッション」というイメージに、一番近かったのはCandidoの音だったのかもしれません。
ただリズムを刻んでいるだけではなく、そこに明確な個性と圧倒的な存在感がある。
コンガという楽器そのものが主役になっているような演奏。
まだ聴いたことがない方は、ぜひ一度その音を聴いてみてください。

Willie Bobo – The Thrill is Gone
プエルトリコ系の家庭に生まれ、ニューヨークで育ったWillie Bobo。
彼はまさに、ラテンのルーツと当時のアメリカの音楽が自然に混ざり合う街の中で、その感覚を身につけていったミュージシャンでした。
Mongo Santamariaのグループでも活動しながら、ジャズ、ソウル、ファンクといった当時のアメリカの音楽を自分の中に取り込み、都会的でグルーヴィーな作品を数多く残しています。
ラテンのリズムを軸にしながらも、ソウルやファンクへ自然と広がっていく感覚。
決して伝統音楽の枠に収まらない。
ニューヨークの街で生まれた、自由で雑多なグルーヴ。

そして、彼らを追いかけていく中で、もう一人避けて通れない存在がRay Barrettoでした。
彼もまたプエルトリコにルーツを持ち、ニューヨークで育ったパーカッショニストでした。
彼の音には、ラテンの熱気だけではなく、ジャズの自由さや、当時のニューヨークらしい都会的な緊張感を感じます。
Mongo SantamariaやCandidoがラテンパーカッションの可能性を広げた存在だとすれば、Ray Barrettoはそれをニューヨークのシーンの中でさらに進化させた存在だったのかもしれません。


レコードを買い始めた頃、ただ「乾いたパーカッションが気持ちいい」という理由だけで手に取っていた音楽。
気になる名前を追いかけていった先にあったのは、ニューヨークという街でした。
僕が好きだったのは、ラテンというジャンルではなく、あの街が生んだグルーヴだったのかもしれません。
Marsにも、そんなニューヨークの熱気を感じるレコードをいろいろと補充しています。
ラテンサウンドに惹かれた方はもちろん、まだ知らない音に出会いたい方も、ぜひ聴きに来てください。
