Ear Discoveries:”RARE GROOVE”

Fri.09.11.2026

こんにちは。禅野です。

 

ハウスやテクノなど、エレクトロニックなサウンド、いわゆる四つ打ちのクラブミュージックだけが流れる空間に、退屈さを感じてしまった18歳の僕。
ロングミックスの美学。時間をかけてビートを合わせ、何時間もかけて少しずつ景色を変えていく。そういうDJの美学にはもちろんリスペクトがあるし、今となっては大好きなジャンルでもあります。

 

ただ、当時の自分にはもう少し違うものが必要でした。
曲が変わった瞬間に空気が変わるとか、ドラムが入っただけでフロアの反応が変わるとか。ジャンルなんて関係なく、「この曲、今かけたら絶対面白いだろ」と思えるものを次々に聴きたかった。

 

僕がレコードを買うようになったきっかけはJAZZのレコードでした。
それまでからJAZZやSOUL、FUNKは好きだったけれど、レコードを買うようになってからは、知らないアーティストの音楽にもどんどん興味が向くようになった。
気になったものを聴いて、そこからまた別の音楽を知る。そんなことを繰り返しているうちに、聴く音楽は少しずつ広がっていきました。

 

そして、先日のDiaryでも書いたように、乾いたパーカッションの音に惹かれる自分がRARE GROOVEにハマっていったのは、かなり必然だったのかもしれません。
生音のドラムやベース、ホーンが前に出ていて、少し埃っぽく、どこか荒々しい。それでいて、身体を動かしたくなるようなエネルギーがある。
LATINでもあるし、SOULでもある。FUNKでもあるし、JAZZでもある。

 

いろんなジャンルを行ったり来たりしながら音楽を聴いてきたけれど、結局いつも戻ってくるのがRARE GROOVEでした。
自分の音楽遍歴を振り返ってみても、ずっと中心にある音楽だと思います。
なのに、「RARE GROOVEって何?」なんて、ちゃんと考えたことはなかった。

 

文字通り「レアでかっこいい音源」と言ってしまえば簡単だけど、それだけでは全然足りない。

 

そもそも、この言葉はいつ生まれたのか。
どうしてJAZZやSOUL、FUNK、LATINなど、いろいろな音楽が「RARE GROOVE」と呼ばれるようになったのか。誰が、どんな場所で、この言葉を使い始めたのか。
キーパーソンのNorman JayやGilles Peterson、Northern SoulやAcid Jazzの名前は知っている。なんとなくの系譜もわかっているつもりだった。

 

でも、点で知っているものを線にしてみると、意外と知らないことも多い。
今回は、そんな「RARE GROOVE」という言葉を、少し遡ってみることにします。

 

RARE GROOVEという言葉が1980年代のイギリスで生まれたこと、その中心にNorman JayというDJがいたこと。
その前にNorthern Soulというカルチャーがあり、アメリカのSOULを探し出し、誰も知らない曲をフロアでかけることに価値が生まれていたことも知っている。
DJがプレイしている曲をオーディエンスや他のDJに知られないように、レコードのラベルを隠してしまう「カバーアップ」という文化も有名な話だ。

 

 

 

 

ただ、Northern SoulからNorman Jayへ、そしてRARE GROOVEという言葉が生まれていくまでの流れを、ちゃんと一本の線として考えたことはなかった。
少し遡ってみると、ここにはイギリスのクラブカルチャーと、そこに流れ込んでいったアメリカのブラック・ミュージック、さらにニューヨークのDJカルチャーが複雑に絡んでいる。
その中でNorman Jayが、過去の音楽をもう一度新しいものとして提示していった。
そう考えると、普段レコード屋で何気なく見ていた「RARE GROOVE」という棚も、ただ古くて珍しいFUNKやSOULを並べたものではなく、もっと長い時間の中で生まれてきたものなのだと思う。

 

Norman Jayの音楽的な背景に、ニューヨークがかなり大きく関わっています。
1979年の最初のニューヨーク訪問。そこで彼はBrooklynのBlock Partyで初めて本格的にDJを経験したそうです。
それ以前からSOULやFUNK、JAZZ、DISCOなど幅広い音楽を聴いていた彼にとって、ニューヨークで実際に鳴っている音楽や、それが人々の中でどう楽しまれているのかを体験したことは、大きな転機になったのでしょう。

 

その後もニューヨークを訪れ、Paradise Garageをはじめとするクラブにも足を運ぶようになります。そこでは、ジャンルをひとつに決めて音楽を選ぶというより、SOULでもFUNKでもDISCOでも、良いと思ったレコードなら同じフロアで鳴らしてしまう。そんな感覚があったようです。
Norman Jay自身も、SOULやFUNKだけでなく、JAZZ、DISCO、REGGAE、カリビアン・ミュージックなど、とにかく面白いと思った音楽を吸収していきました。

 

この「ジャンルを跨いで、自分の耳で面白いものを選ぶ」という感覚は、その後の彼のDJスタイルにも大きく繋がっていきます。

 

 

 

 

ニューヨークでは、SOUL、JAZZ、DISCOなど、ジャンルという垣根をあまり気にせず音楽がプレイされていた。
その空間や、その時間にハマりそうな音楽なら、ジャンルに関係なくかけてしまう。
この感覚は、その後のNorman JayのDJスタイルにも大きな影響を与えたようだ。

 

ロンドンに戻った彼は、Notting Hill CarnivalGood Times Sound Systemを始める。もともとREGGAEを中心としていたサウンドシステムに、SOULFUNKDISCOJAZZ-FUNKEARLY HIP HOPELECTROなどを持ち込んでいった。
当時のREGGAESOCAが中心だったCarnivalでは、当然すぐに受け入れられたわけではなかった。それでも彼は、自分が面白いと思った音楽をプレイし続けた。

 

 

 

 

そして80年代半ば、海賊ラジオKISS FMで始めたのが「The Original Rare Groove Show」だった。
Norman Jay自身、最初からそう名付けたと言っている。番組では彼がこれまで聴いてきたブラック・ミュージックの歴史を、自分なりの解釈で紹介していた。
その番組を聴いていたUKヒップホップの第一世代も多く、やがて「RARE GROOVE」という言葉自体がひとつのムーヴメントを指すようになっていく。
Norman Jayの話を追っていくと、RARE GROOVEは単純に「昔の珍しいレコードを聴く」という話ではないことがわかってくる。
面白いのは、過去の音楽を、その時代とは違う文脈で聴き直していることだった。

 

当時はヒットしなかった曲。
アルバムの中にひっそり入っていた曲。
B面に入っていただけの曲。

 

そんなレコードでも、DJがフロアでかけてみると、別の時代には別の価値を持つことがある。
そして同じ頃、HIP HOPではレコードの中からドラムブレイクやベースライン、ホーンなどを見つけ出し、サンプリングして新しい音楽を作っていた。

 

つまり、昔のレコードは「古い音楽」として保存されるだけではなく、今の音楽を作るための素材としても聴かれていた。
誰かがもう一度聴くことで、そのレコードに新しい意味が生まれる。
そう考えると、RARE GROOVEという言葉が、必ずしも「入手困難なレコード」だけを指さない理由も少しわかる気がする。

 

そして、この流れを語るうえで外せないのがGilles Petersonだ。

 

 

 

 

Norman Jayと同じように、JAZZやSOUL、FUNKなどジャンルを横断してDJをしていた彼は、1987年にEddie Pillerとともにレーベル、Acid Jazzを立ち上げる。
「Acid Jazz」という名前からするとJAZZそのものを想像してしまうけれど、実際にそこから生まれた音楽はもっと自由だった。JAZZ、SOUL、FUNK、LATIN、REGGAEなど、いろいろな音楽がそこには混ざっていた。
そこからGalliano、The Brand New Heavies、Jamiroquaiなど、後のAcid Jazzを代表するアーティストも登場していく。

 

Gilles Peterson自身が、Acid Jazzについて、過去のJAZZやSOUL、FUNKをそのまま聴き直すだけではなく、そこから新しい音楽を生み出していくことも重要だったと話している。
古い音楽をそのまま残すのではなく、もう一度聴き直して、そこから別の音楽を作っていく。

 

そう考えると、ここでもRARE GROOVEと同じようなことが起きている。
古い音楽を保存するのではなく、もう一度使う。
それがDJの選曲だったり、HIP HOPのサンプリングだったり、Acid Jazzという新しい音楽だったりした。

 

Northern SoulのDJたちが見つけたSOUL。
Norman Jayがニューヨークから持ち帰ったFUNKやDISCO。
HIP HOPのDJたちがサンプリングのために見つけた古いレコード。
Gilles Petersonたちが、そこから新しい音楽を作っていった。

 

それぞれやっていることは少しずつ違うけれど、共通しているのは、膨大な音楽の中から自分たちの耳で面白いものを選び直し、もう一度新しいものとして聴いていたことだった。

 

こうして改めて辿ってみると、RARE GROOVEはやっぱり、ひとつの音楽ジャンルというより、過去の音楽を別の文脈で聴き直し、もう一度その面白さを見つけるための概念に近いのかもしれない。

 

だから、RARE GROOVEの棚にはJAZZもSOULもFUNKもLATINもある。
いろんな音楽の要素が混ざった曲もあれば、ド直球でSOULやFUNKをやっている曲もある。
もともとDJのプレイをイメージして作られたわけではない曲が、DJによってフロアで鳴らされることで、ダンスミュージックとして日の目を見ることもある。

 

そうやって誰かが「これ、面白いな」と見つけた音楽が、時代を越えてもう一度聴かれる。
そう考えると、RARE GROOVEという場所にいろんなジャンルの音楽が並んでいるのは、最初からひとつのジャンルだったからではなく、それぞれ違う場所にあった音楽が、誰かの耳によってもう一度選び直されてきた結果なのかもしれない。

 

 

陽気すぎるラテンでもない。
プリミティブすぎるアフリカ音楽でもない。
土着的すぎるフォークでもない。
かといって、完全にJAZZやFUNKというわけでもない。

 

 

そういう、いろんな音楽の間にあるものが好きなのはもちろんだけど、別にそれだけじゃない。
SOULど真ん中の曲もあれば、FUNKど真ん中の曲もある。
ただ、どんな音楽であっても、誰かがもう一度面白いと思って選び直すことで、今の自分には新鮮に聴こえる。

 

……まあ、そういう「なんかかっこいい曲」が、後からRARE GROOVEという便利な名前でまとめられているところも、ちょっとずるいんだけど。

 

 

Marsには、Upstairs Record&Barの店主・永友さんの耳を通して厳選されたRARE GROOVELPがたくさんあります。
せっかくなので、次回はその中からいくつか紹介しますね。